文筆家/即興演奏家である男女が、書き言葉を舞台上で引き裂き、揺らめかせようとする試み。
【出演】大谷能生・吉田アミ・滝口悠生
【開場】18:30
【開演】19:00
【料金】2,500円(1ドリンク付)
朗読DUO/「吉田アミ、か、大谷能生」
演奏家としてステージに立ち、また同時に、小説/批評/エッセイの書き手として文学に関わる吉田アミと大谷能生は、2010年から朗読=演奏のユニット<朗読DUO>として、多数のステージでパフォーマンスを行ってきました。
彼女/彼は、1990年代後半から試みられてきた、音と音楽、演奏することと聴き取ること、個人とアンサンブルの関係などを厳しく問い直す、あたらしい即興演奏の実践/批評に関わるところから、それぞれの活動をはじめました。
ここではその詳細に踏み込むことをしませんが、およそ十年は続いたこの実験的ムーブメントは多くの成果を生み、そのシーンを通過したミュージシャンたちは現在、自身の資質に当時の経験を改めて反映させながら、さまざまなかたちで演奏を継続させています。
彼女/彼は、自ら生み出し、展開させたこのようなエクストリームな即興演奏の方法と倫理を、言葉と声の分野においても実践できないだろうかと考えました。
書き言葉を舞台上で引き裂き、揺らめかせようとする試み――近代小説の前提である「黙読」というシステムで書かれた紙の上の言葉を、90年代後半から試みられてきた、ハードコアに個人主義的な日本のあたらしい即興演奏に接続することによって、まったくあたらしく響かせることは出来ないだろうか? このような無謀とも言えるアイディアから、吉田アミと大谷能生の<朗読DUO>は、はじめられました。
吉田アミの<ハウリング・ヴォイス>は、そもそも声の言語的使用・意味の伝達をまったく排除するところから形作られたものであり、大谷の楽器であるサックスは通常発話と同時に演奏されることはありません。胸と息と喉と声帯を使用しながら、その機能を言葉を伝えることとはまったく異なった状態に育て上げてきた即興演奏者が、その回路を通して、あるいは放棄して、ひとつの言葉を同時に読む。その言葉は、男性の声と女性の声のあいだで宙に釣られ、書き言葉がもともと持っていた「語り手の不明」さを明らかに示しながら、ひとつのものが同時に複数である経験をわたしたちに示してくれるでしょう。
これまで清澄白河Snac、浅草橋パラボリカ・ビス、アサヒ・アートスクエア、西麻布スーパーデラックスなどで試みられてきた彼女/彼らのステージは、現代文学/音楽の極端なオルタナティヴとして高く評価されてきました。2015年に「吉田アミ、か、大谷能生」名義で発表した舞台作品、『デジタル・ディスレクシア』から一年の充電期間を経て、2017年、毎回さまざまなゲストをお呼びしながら、およそ隔月のペースで、荻窪ベルベット・サンを中心にライブを企画してゆく予定です。われわれのステージにご期待ください。
吉田アミ(よしだ あみ)
音楽・文筆・前衛家。1990年頃より音楽活動を開始。2003年にソロアルバム「虎鶫」をリリース。同年、Utah KawasakiとのユニットastrotwinとSachiko.MとのユニットcosmosのCD「astrotwin+cosmos」がアルスエレクトロニカデジタル・ミュージック部門のグランプリにあたるゴールデンニカを受賞。文筆家としても活躍し、小説やレビュー・論考を発表。著書に「サマースプリング」(太田出版)、小説「雪ちゃんの言うことは絶対。」(講談社)がある。
大谷能生(おおたに よしお)
1972年生まれ。音楽(サックス・エレクトロニクス・作編曲・トラックメイキング)/批評(ジャズ史・20世紀音楽史・音楽理論)。96年〜02年まで音楽批評誌「Espresso」を編集・執筆。菊地成孔との共著『憂鬱と官能を教えた学校』や、単著『貧しい音楽』『散文世界の散漫な散策 二〇世紀の批評を読む』『ジャズと自由は手をとって(地獄に)行く』など著作多数。音楽家としてはsim、mas、JazzDommunisters、呑むズ、蓮沼執太フィルなど多くのグループやセッションに参加。ソロ・アルバム『「河岸忘日抄」より』、『舞台のための音楽2』をHEADZから、『Jazz Abstractions』をBlackSmokerからリリース。映画『乱暴と待機』の音楽および「相対性理論と大谷能生」名義で主題歌を担当。東京デスロック、中野茂樹+フランケンズ、岩渕貞太、鈴木ユキオ、室伏鴻ほか、演劇やダンス作品への参加も多い。近作は『マームとジプシーと大谷能生』、入江陽『仕事』(プロデュース)など。2015年6月に初舞台主演作品となる『海底で履く靴には紐がない』(山縣太一作・演出・振付)を上演。
スペシャルゲスト
滝口悠生(たきぐち・ゆうしょう)
小説家。1982年生まれ。2011年「楽器」で新潮新人賞を受けデビュー。15年、映画「男はつらいよ」シリーズをモチーフにした『愛と人生』(講談社)で野間文芸新人賞。16年、『死んでいない者』(文藝春秋)で芥川賞。デビューから一貫して小説におけるナラティブ(語り)を重視した作品を発表。音楽や映画や落語などしばしば異ジャンルへと侵蝕しながらユーモラスな小説世界を展開する。他の著書に『寝相』『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』(ともに新潮社)。